2012年07月04日
恐怖の六時間 (復刻版)
連休最後の日の朝でした。立川駅からタクシーに乗ってきたのはYシャツにボサボサ頭と不精ヒゲの若い男の人でした。
持っているものは小さなコンビニ袋とペットボトルだけ。
「センダイに行ってください」
「えっ、センダイって東北の仙台ですか」
なんとはなしに雰囲気から不安を感じたので近くにいた同僚に相談した。彼が男の様子をうかがうと
「ちょつと変だよねー。本社に無線いれたら」
すると本社からすぐに無線で指示が入った。遠距離なので料金の確認と二人乗務でとのこと。
お客に了解をとり乗務員を迎えに車庫へと向かった。
「女性の運転手はいませんか」
この言葉にさらに妙な不安を感じたのです。車庫近くの公園の前で
「止めてください。ヒゲをそりますから」
そういって袋からカミソリとカッターナイフを取り出し降りていったのです。
この刃物をみて気味が悪くなりました。まもなく戻った顔を見ると口のまわりに血がにじんでいるのです。
なにか異様です。車庫に着くと操車主任が駆け寄ってきたので
「なにか変です。お客を見て下さい」
主任はドァーを開けて客席をのぞき
「相当長距離なので料金のご用意ありますか」
「あります」
低い声で言った。車庫待機の運転手が心配そうにみていて
「金、大丈夫かなー」
「おかしいよ覚せい剤でも・・・」
主任が
「万が一なにかあったら警察に飛び込んで下さい。充分きおつけて〃」
この判断で山川乗務員とのツーマンで不安を抱きながらも仙台へ向けてスタートしたのです。
ツーマン乗務で幾分緊張がすくなったのですが車内は無言で張り詰めた雰囲気だった。
ときおり客席からカチャ、カチャと刃物の音が無気味に聞こえた。
こんな状態を少しでも変えようと山川乗務員と意識的に会話を交わしたのです。
突然男が云った。
「石巻まで云ってください」
石巻といえば仙台からさらに北上します。すかさず山川さんが相当な金額になるので内金お願いしますと云った。
大泉IC近くになった。コンビニに寄りたいとのことでそこで止め、ここまでの料金、約一万円を支払ったので少し安心した。
高速に入り東北道を進む。
途中PAで運転交代を言うと、そのまま走れという。そして刃物のカチャ、カチャガ聞こえた。
しかし郡山を過ぎたあたりで車両点検を理由に強引に安達太良PAに入る。
その後、宮城県に入り管生SAで交代、料金は九万円ほどになつた。
車はさらに北上し仙台南から三陸道に入る。ここから五十Kほどで石巻だ。
この東北地方はかって旅回りの仕事でよく走っていたので地理には詳しい。
やがて「石巻IC」「石巻港IC」の標識がみえた。
「どちらのICでおりますか」
返事がない。車内が凍りつく雰囲気だ。しばらくすると
「港に行ってください」
石巻港ICを出ると東埠頭、中央埠頭の看板が目にはいった。
「どちらの港へ」
しかし返事がない。そのうち郊外へ行け、マンガ館だ、食堂だとくるくるとかわる。
いよいよ最悪のケースかと心臓が高ぶる。知らない町をぐるぐる走る.
食堂を探し石巻の町中を走りつづけるしかし男は無言。
なかなか食べ物屋が見つからない。すると、そば屋があつた。
「お客さん、そば屋ですよ」
「ここで降ります」
男はコンビニ袋から、シワシワの封筒を出し料金128130円を払いだまって降りたのです。
なんともあっけない幕切れでした。
午後4時を少し過ぎたころでした。しかし帰りの東北道ではドット疲れを感じたのでした。
-終わりー
※この記事は2009年アップしたものを修正したものです。
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持っているものは小さなコンビニ袋とペットボトルだけ。
「センダイに行ってください」
「えっ、センダイって東北の仙台ですか」
なんとはなしに雰囲気から不安を感じたので近くにいた同僚に相談した。彼が男の様子をうかがうと
「ちょつと変だよねー。本社に無線いれたら」
すると本社からすぐに無線で指示が入った。遠距離なので料金の確認と二人乗務でとのこと。
お客に了解をとり乗務員を迎えに車庫へと向かった。
「女性の運転手はいませんか」
この言葉にさらに妙な不安を感じたのです。車庫近くの公園の前で
「止めてください。ヒゲをそりますから」
そういって袋からカミソリとカッターナイフを取り出し降りていったのです。
この刃物をみて気味が悪くなりました。まもなく戻った顔を見ると口のまわりに血がにじんでいるのです。
なにか異様です。車庫に着くと操車主任が駆け寄ってきたので
「なにか変です。お客を見て下さい」
主任はドァーを開けて客席をのぞき
「相当長距離なので料金のご用意ありますか」
「あります」
低い声で言った。車庫待機の運転手が心配そうにみていて
「金、大丈夫かなー」
「おかしいよ覚せい剤でも・・・」
主任が
「万が一なにかあったら警察に飛び込んで下さい。充分きおつけて〃」
この判断で山川乗務員とのツーマンで不安を抱きながらも仙台へ向けてスタートしたのです。
ツーマン乗務で幾分緊張がすくなったのですが車内は無言で張り詰めた雰囲気だった。
ときおり客席からカチャ、カチャと刃物の音が無気味に聞こえた。
こんな状態を少しでも変えようと山川乗務員と意識的に会話を交わしたのです。
突然男が云った。
「石巻まで云ってください」
石巻といえば仙台からさらに北上します。すかさず山川さんが相当な金額になるので内金お願いしますと云った。
大泉IC近くになった。コンビニに寄りたいとのことでそこで止め、ここまでの料金、約一万円を支払ったので少し安心した。
高速に入り東北道を進む。
途中PAで運転交代を言うと、そのまま走れという。そして刃物のカチャ、カチャガ聞こえた。
しかし郡山を過ぎたあたりで車両点検を理由に強引に安達太良PAに入る。
その後、宮城県に入り管生SAで交代、料金は九万円ほどになつた。
車はさらに北上し仙台南から三陸道に入る。ここから五十Kほどで石巻だ。
この東北地方はかって旅回りの仕事でよく走っていたので地理には詳しい。
やがて「石巻IC」「石巻港IC」の標識がみえた。
「どちらのICでおりますか」
返事がない。車内が凍りつく雰囲気だ。しばらくすると
「港に行ってください」
石巻港ICを出ると東埠頭、中央埠頭の看板が目にはいった。
「どちらの港へ」
しかし返事がない。そのうち郊外へ行け、マンガ館だ、食堂だとくるくるとかわる。
いよいよ最悪のケースかと心臓が高ぶる。知らない町をぐるぐる走る.
食堂を探し石巻の町中を走りつづけるしかし男は無言。
なかなか食べ物屋が見つからない。すると、そば屋があつた。
「お客さん、そば屋ですよ」
「ここで降ります」
男はコンビニ袋から、シワシワの封筒を出し料金128130円を払いだまって降りたのです。
なんともあっけない幕切れでした。
午後4時を少し過ぎたころでした。しかし帰りの東北道ではドット疲れを感じたのでした。
-終わりー
※この記事は2009年アップしたものを修正したものです。
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